道楽者の詩

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アコースティックギター 木目と音の話 #5

Collings OM-1A 2001

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これは Collings OM-1A といわれるギターで、Custom 品です。

自分でオーダーしたわけではないのでよくはわかっていませんが、トップ材がアディロンダックスプルースであること、これが特注のポイントだそうです。ギター小僧であれば、それだけで十分Prewarスタイル18という趣旨が伝わってくるというものです。

 

トップ材としては、木目の幅が広く、さらには白太(木材の表皮に近い部分)といわれる、通常は使わない部分もたっぷりと使っていますので、若くて細 い木材から採った材であることがわかります。あまり良い材とはいえませんが、製造年代を考えると、まあ頑張ったといえるのではないでしょうか。

目の肥えた方の談によりますと、トップもS&Bも普通の材だけど、指板のエボニーは一級品だということです。完璧な柾目だということ、そのうえ十分なエージング(乾燥処置)がなされているので狂いがほとんど発生しない最高級の材料だとの解説は頂きましたが、墨のような真っ黒けの板なので分りにくいです。

 

いわゆるPrewarのスタイル18は、アディロントップにエボニー指板、フォワードスキャロップドブレイシングなのであります。その三拍子をそろえるために、通常の OM-1 はシトカスプルースでありますところを、カスタムで特注にしたというわけでしょうね。

しかしながら、Prewar スタイル18 というのなら、ロングサドルは譲るとしても、ダブテイルジョイント&Tバーロッドは避けて通れないのですが、残念ながらこいつはボルトジョイント&アジャスタブルロッドという仕様です。ビンテージマーチンを愛するものからしますと、目を覆いたくなるような仕様なのであります。

 

ビンテージマーチンを前提とすれば、もう一箇所ヘンな仕様になっています。それは指板の幅(ナット幅)です。OMというのはオーケストラモデルといわれる仕様で、OOOサイズのボディーにロングスケールの14フレットジョイント、そしてナット幅は44.5mmと通常のギターより幅広のネックというのが一般的です。ところがこのOM-1Aはいわゆるドレッドノートのナット幅42.9mmのロングスケール14フレットジョイントのネックが装着されています。

 

OMネックの広いナット幅は指板そのものも広く、弦と弦の間隔が広いので、手のひらの大きい指の太い人には隣の弦に指が干渉しにくくて都合がよいのです。ところがその仕様は日本人の手には厳しいものがありまして、特に私のような手の小さい者にとっては拷問のようなネックなのであります。ですから個人的にはOMネックじゃなくて助かっているのですが、OMと名乗るにはちょっと抵抗がないわけではありません。

 

マーチンの歴史を深く探りますと、OMモデルは1933年に一旦OOOに統合され、OOOモデルは14フレットジョイントのショートスケールとして1934年に製作が始まったとされています。ですので、34年以降はOOOサイズのボディーでロングスケール14フレットジョイントのギターは規格上は存在しないことになります。ところがある時期、試作か過渡期の都合によってロングスケールのネックが装着されたOOOが存在したといわれています。それが34年以降であれば、ドレッドノートのネックが装着されたのではないかとも思われます。もしそうであれば、このOM-1Aと全く同じ仕様になりますので、手元のギターは「幻の OOO-1A」 と呼んでもいいかもしれません。

スケールがロングかショートかに関しては、一声で言えば指弾きをする人はショートスケールが、ピックで弾く人は張りのあるサウンドが得られるロングスケールを好むとされています。

 

さらに歴史をほじくり返しますと、指板上のドッ トインレイは1932年に3個から5個に変更になっています。この頃はドレッドノートという規格が存在していないので、3ドット仕様のウチのOM-1Aは時代的な矛盾はある事になりますが、私は密かに幻のOOO-1Aと称しています。スジを通せばピックガードもOOO仕様のものに交換しなくてはなりませんが。。。

 

ちなみに当時購入店で伺った話では Collings のOMネックは通常幅のロングスケールが標準仕様でして、このビンテージマーチンの純正OMネックとは異なり、幅広ネックはカスタム仕様になるのだそうなのです。うちの Collings OM のネックは Collings の標準仕様なので、私の手でも十分扱える代物なんです。指板のインレイは、5、7、9フレットのドット3個タイプです。

 

 

 

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音は明瞭でよろしいです。何よりチューニングの狂いが少ないことも手伝って、非常に扱いやすいサウンドです。おおよそ、戦後のマーチン スタイル18のマホガニーの音とは違い、Prewar スタイル18を思い起こさせるに十分に太目の音で、気に入っております。

ただ、注文もありまして、夜中に一人でフローリングの部屋でEを押さえて静かにピックで弾き下ろした時に感じる恍惚感がないのです。ナンジャそりゃ?!、とおっしゃる方は無視していただいてよろしいのですが、以前所有していた D45、D35、D28、D18、OO-18 が奏でてくれたどこかプルプルッと感じるあの興奮を呼び起こす音が出せない、素性や育ちはいいのですが色気がもう一つ、というギターなのであります。たぶん、ボルトジョイントのせいだろうと勝手に因縁をつけておりますが、実際のところは分りません。でも、とても扱いやすいギターです。。。

 

 完全に蛇足ですが、国内では「コリングス」と発音されることが多いようですが、私は「コリンズ」と発音することが多いです。Collings のギターを初めて知ったのはハワイの island Guitars というショップでした。そこでは「カリンズ」と発音されていまして、先にこの発音を覚えたというだけのことです。こちらがネイティブです、たぶんね。

 工房はテキサスにあったと思います。精度の高い工作をするといわれているファクトリーです。

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