道楽者の詩

写真とカメラ、山登り、ジムニー、ギターをはじめ、日々の私情をつらつらと

もんげー岡山、岡山弁を少しだけ解説します

f:id:Bluesboy:20160507064336j:plain


私は生まれも育ちも備前岡山、仕事で3年ほど長期出張という形で東京で雑魚寝生活をしていた事がありますが、生粋の備前人です。あまり自覚はありませんでしたが、どうやらそこそこの地元志向のようで、高校野球に限らず地元チームにはついつい感情移入してしまいがちです。

そんな私が以前から気になっていた「方言」なのですが、岡山弁は濁音ときゃ・きゅ・きょ のような拗音が多いからでしょう、「汚い」とよく言われます。典型的なのは「じゃぁじゃ」=「そうそう」ですかね、自分でも地元以外で使うのはかなり気が引けますので、注意しています。

 

しかしながら、他の地方の方言だってなかなかすごい表現があるということを知ってから、生まれ故郷の方言を自慢することまではなくても、あえて敬遠したり蔑むこともないだろうとは思うようになりました。

最近では「もんげー、岡山」というキャッチフレーズで岡山県のアピールをしています。このキャッチフレーズは全国にアピールするフレーズとしてはアリなのかなぁと思いますが、ネイティブの私としては少々首をひねるところがあります。

些細なことなのでどうでもいいのですが、まずは「もんげー」は「もんげぇ」と表記して欲しいですね。さらに「もんげぇ」の意味合いは「とても ≒ 大変 ≒ Very」とされていますが、より適切なのは「Great」ではないでしょうか。通常は感嘆的に使っていましたから後に単語(特に名詞)が続くのはちょっと違和感があります。

でもまあそんなローカルで重箱の隅をつつくようなことはどうでもよいです、声高らかに「もんげぇ岡山」と叫んでおきましょう。

 

もんげぇ!、岡山

 

ネットでは、「もんげー」は本当に使われるのかという問いかけがありましたので、ここでネイティブの私が申し上げておきます。「もんげぇ」は標準語の「ものすごい」がなまった発音として間違いなく使っていました、「もんげぇ!」「もんげぇのう」「もんげぇんじゃ~」という感嘆的な使い方で、後に名詞が続くことはあまり記憶がありません。

また使用しているのは1~2割という記述を見かけました。数字の根拠は明らかにされていませんが、あくまで私の知る範囲ということでいえば、年齢に関係なく「もんげぇ」を使う女性は皆無です(桜井日奈子に「もんげぇ」といわせてはいけません、知らなかったではすみません、渋野日向子と藤原史織はギリセーフか)。また男性であっても成人で使っている人は知りません。知る範囲では小・中学生の一部の目立ちたがり屋の男子が使っているだけで、クラスに数人という感じでした。15歳までの男性というくくりとすれば1~2割、すなわちごく限られた人たち(クソガキ)だけが使っているというのはあながち間違いでは無いと思います。

少なくとも ↓ こんなポップな言葉ではありません。尻やら腰を振らせるのはなんぼ振らせても構わんが、おなごんこに「もんげぇ」といわせちゃおえん!

こりゃ~、アウトじゃろぅ

 

「ものすごい」という言葉の派生として、「もんげぇ」の他に「ものごっつい」「ものごっちぃ」「ぶちすげぇ」と言うのがあるといわれていますが、これらは岡山弁とは認めたくありません。前者2つはそのように発音する人が小学生の時にいましたが、ある限られた個人だけでした。「ぶち」を使う岡山県人は一人として知りません。備中の限られた地域で使用されるのかもしれませんが、備前では見た事も聞いた事もありません。おそらくどこかのローカルな表現をくっつけた造語ではないのでしょうか。

※ 同じ「ぶち」がつく言葉に「ぶちなぐる」、「ぶちまわす」、というのがあります。この場合の「ぶち」は Very ではなく、「ぶつ≒叩く」という意味の接頭語と理解したほうがいいでしょう。

 

さらにさらにネットでは、「もんげぇ」と並べて「ぼっけぇ」「でぇれぇ」が同じ意味という解説が多いです。確かにおおよそ同じ意味なのですが、微妙なニュアンスは違います。さらに、方言は「ぼっけぇ」だけで、「もんげぇ」と「でぇれぇ」は単なるなまりだと理解しています。

「でぇれぇ」は、「とても」という意味の「えらい」に「ど」をつけてさらになまったもので、「えらい」 ⇒「えれぇ」⇒ 「ど+えれぇ=でぇれぇ」 ⇒ 「ど+でぇれぇ=どうぇれぇ」と、だんだんと意味合いが強くなります。元々「えらい=とても=very」という意味なので、後に形容詞とか副詞などの単語が続くことが多いです。

注:「えらい」には「しんどい」「息苦しい」という意味もあり、通常「えれぇ」と発音します。例:ぼっけぇえれぇ=とてもしんどい

 

「もんげぇ」は、「ものすごい」⇒「ものすげぇ」⇒「もんげぇ」となまったもので、それ自体で完結する感嘆詞ともいえる言葉です。標準語でいう「これは(もの)すごいね」を「こりゃもんげぇのう」と発音するだけで、純粋な意味での方言ではありません。

「ぼっけぇ」の語源は知りません。これは年齢性別を問わず、どなたでも軽いタッチで使用されます。概ね「とても=Very」という意味なのですが、相手に対して「ぼっけぇのう」=「大変だったね」、「それはすごかったね」という具合に用いる場合もあります。便利な言葉で比較的タッチは軽く、たいして「Very」と思っていない場合も珍しくありません。また「ぼっこう」という場合もあります。例:「ぼっこういうちゃんな」=「あまりきつく叱らないでやってくれ」

「すごい」という程度をあえて並べると、私の感覚では「ぼっけぇ」<「でぇれぇ」<「もんげぇ」です。あくまで「あえて」であって、客観的根拠はありません。

 

使用する頻度は、子供の頃は、「ぼっけぇ」<「もんげぇ」<<「でぇれぇ」でしたが、大学生の頃には全て使わなくなって、最近では「ぼっけぇ」だけは無意識のうちに使っているようです。「ぼっけぇ」はおおよそどんな場合にでも便利に使えますので、私もつい口をついて出てしまう感じです。

対して「もんげぇ」は、上述しましたとおり、男子の小中学生の一部(クソガキ)がここぞという時に使う程度で、決してポピュラーではありません。意味合いは比較的強くて用途は狭いので、感動を忘れてしまった近年では、私にとってはほとんど死後に近い言葉です。

「でぇれぇ」は子供の頃本当によく使っていましたので、いまさら使うのはちょっと気後れします。ちなみに「でぇれぇ」も主に男性が使い、女性が使うのは珍しいです(皆無ではありません)。

 

岡山弁と一口に言っても、美作、備前、備中では多少違いがあります。私が使い慣れているのは備前弁です。この備前弁(岡山弁)のなまりの一つをご紹介します。「ai」が「e-」に変化するのが一つの定石です。

  1. あい ⇒ え~ : 「愛」を「えぇ」とは言わないようですが、「あいづち」は「えぇづち」。「会いたい」は「えぇてぇ」、「毎日君に会いたいんだ」は「めぇにち、おめぇにえぇてぇんじゃ」 (xx)
  2. かい ⇒ けぇ~ : 「貝」は「けぇ」です。ところが、「これから」も「けぇから」、「来い」も「けぇ」です。全部合わせると「けぇからけぇ(を)もってけぇ」となります。
  3. さい ⇒ せぇ~ : 「西大寺」は「せぇでぇじ」と発音しますね、日常的に。
  4. たい ⇒ てぇ~ : 「鯛」は「てぇ」です。「~したい」は「~してぇ」、「痛い」は「いてぇ」です(「居たい」は「おりてぇ」となります)。「てぇをてぇてぇてぇ」=「鯛を煮ておいてください」。
  5. ない ⇒ ねぇ~ : 「無い」は「ねぇ」ですね。
  6. はい ⇒ へぇ~ : 「入る」は「へぇる」ですね、「ふれぇへぇっとる」=「入浴中です」。
  7. まい ⇒ めぇ~ : 「一枚、二枚」は「いちめぇ、にめぇ」、まるでヤギですね。
  8. やい ⇒ えぇ~ :お灸のことを「やいと」といいます。ばあさんに、「わるさぁしょうったら、えぇとをすえるぞ(=いたずらをしていたらお灸をすえるぞ)」と、よく言われました。
  9. らい ⇒ れぇ~ : 「ライト」は「れぇと」に、「えらい」は「えれぇ」・・・なりますね。
  10. わい ⇒ えぇ~ : これはほとんど使用例が思いつきません。「わい」は私という第一人称に使いますが、「わい」はなまりませんね。

 

そんなこんなをまとめてみました。役には立ちませんが民俗学にご興味のある方はどうぞ。

 

岡山弁辞書|吉備の国放浪記